• 輿石信男

コロナ後も上昇する中国の不動産

 


ある日、仕事で訪れた上海の浦東新区の現場から、東昌路駅という地下鉄駅に向かって歩いていた。旅行者ならば一度は必ず訪れる上海の中心地にそびえる東方明珠電視塔のある陆家嘴駅の隣駅だ。大きな交差点にさしかかった時に突如目の前に巨大な人物が現れてギョッとした。あまりの絵の大きさに圧倒されながら、どこか懐かしさを感じた。なぜなら、それは私がブラジルに駐在していた時に毎日のように見ていた絵のタッチとそっくりだったからだ。よく見ると、下にブラジル国旗が描いてある。まさにブラジル出身で、今はニューヨークで活躍するウォールアート作家SIPROSの作品ではないか!これだけの作品がまさか偽物であるはずはない。わざわざ中国の公的機関か企業が招いて描いてもらったとしか考えられない。屋外広告の表現やこのような巨大なアートにはなかなか厳しい上海政府が、このようなストリートアートを許可をしたのも驚きだった。

 しかも、描かれたマンションというか、団地をよく見てみると、最新の高級マンションではなく、いわゆる昔政府から公務員等の普通の人々に無償で提供された社宅のような建物ですでに築年数も相当なものだ。私も中国で多くの内装をした経験から、外見でおおよその中がわかるが、多分、4−5階建てでエレベーターもなく、一部屋20〜60㎡ぐらいの壁の薄い、古い造りの建物である。もちろんストリートアートはもともと、廃墟のようなところの壁や道路のトンネルの中の壁など、あまり綺麗ではない公共の場所にある日突然出没して描かれるところから始まったわけで、そういう意味ではこの建物の壁は、ウォールアートに適しているとも言える。

 問題は通常はそこに住んでいる人がそこで描くならばわかるが、今回はわざわざ海外からアーティストを招いて相当なお金を払って描いてもらっているはずだ。こんな団地にそんな価値があるのかということだろう。皆さんはこのアパートの部屋をいくらぐらいなら買うだろうか?わざわざこんなに古くて、造りの悪い物件は買わないだろう。

 しかし、そこは中国。実は十分すぎるほどの価値があるのだ。私は、この近くの別の区だが同じような古い物件の内装を頼まれたことがある。その時に、ちなみにいくらで買ったか聞いてみた。40㎡で階段なしの6階である。築年数も50年は経っていそうな物件だが、なんと平米単価10万元!耳を疑って一部屋全体で10万元ではないかと聞き直したが、総額400万元=約6000万円と。。。30歳過ぎのお客さんの顔をマジマジと見入ってしまった。「小さいスペースを効率的に使えるようにするのは日本人は得意でしょ?」と言われたが、建物と価格のあまりのギャップに言葉を失った。子供にいい教育を受けさせるために、いい学校に行かせたい。いい学校に通わせるためには、その学校に通える学区に住所が必要となるが、中心部の学区は億ションだらけなので、予算的にはここしか選択の余地がなかったとか。子供が卒業する頃には倍ぐらいで売れれば安い買い物という感覚である。

 こうやって、上海人は政府からタダで配給された住宅を何千万円で売り、そのお金でいくつもマンションを買って、それらが数年で何倍かになり、働かなくて良いにわか成金だらけである。報道では、コロナ後もほとんどの都市部では、不動産価格の上昇が始まった。都市の中心部はもう新築を建てる場所もなくなっているため、上がり続けているようだ。

 そろそろバンクシーも中国に現れるかもしれない。



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